画家 浜田隆介

詩集

濱田隆介遺作集刊行じあたって
「ルンルン」という言葉が流行っていたころ、好きな人間たちが好き勝手なことを書いて遊んだ時期があった。発行部数100部程度のミニコミとさえ言えない冊子で、私たちは『縷ん縷ん』と名づけた。濱田隆介氏は、その冊子の常連であった。
第1期が昭和五八年から十一月まで10号、第2期が昭和六〇年二月から翌年四月まで11号、計21号発行して終刊となった。濱田氏が六五歳から六七歳のころである。
この間に20篇の文章を寄せられた。六号を一回休んだだけでほぼ皆勤だった。身体も心もカクシヤクとされていた、と記憶している。
今回の『展』にあたって、同誌に掲載した全篇をご家族の了解を得て紹介することにした。感性ゆたかな文人でもあった、濱田氏の一面が伝われば良いと思う。
なお、著者の表現ニュアンスを正確に再現するため、全文原文のままとした。
平成四年水無月    近藤 壽一(元『縷ん縷ん』誌編集長

愚 痴 (ある週末)

〇月〇日(金) 突然東京にいる〇から電話があった。 “借金を抱えてどうにもならず、しばらく東京から蒸発する。大阪へ片道切符で行くからめんどうたのむ”と云う。冗談にしては余り気の利いたものとは云えないが、兎に角電話ではどう… もっと読む »

啓 藝

二十四気は陰暦で正月節が立春、次に雨水、三月節で“啓蠻”となっている。 陽暦では立春が二月四日頃で啓蠻は三月六日、三月六日は旧地久節(皇后誕生日)、昔は小学校で女の子だけが休日になったょぅにも思えるが、さだかでない。 土… もっと読む »

風 化

春分の日(三月二一日)、アメリカの空母、エンタープライズがまた佐世保に人港したという。その船は、大きく魁偉であった。 一五年前にも同じ佐世保に入って来たときは、ベトナム戦争の真最中に抜身を引っ下げての闖入振りに庶民的反撥… もっと読む »

“風 化”続演

風流七言絶句が、一部の読者のヒンシュクを買い、評判よろしからずとは、マジに取組んできた積 もりだけに、戸惑いを感じる。 るんるん誌の第3号を送って、軽く投稿依頼しておいた東京の友人から先日電話があって、るんるんは面白く読… もっと読む »

続・風 化

“生産性”いうGODが釈迦・キリストに代って頭角を現わしてきたのはー七六〇~一八三〇・四〇年にイギリスで興った「産業革命」といわれた、技術的•経営的、かつ社会的な変革の波に押し上げられたものと理解する。 この風潮が国際的… もっと読む »

家 計 簿

るんるん5号で、次号からは糠味噌くさい作文を書きますから、と約束していながら6号をサボってしまった。 少年の頃、大人の誰かから「欧米人はチーズの臭いがして、中国人(その時その人は支那人といった)はニンニクの臭いで、日本人… もっと読む »

老 人 無 頼

友人が“自画像”を添えて長い手紙をくれました。 (ママ転載すると著作権の侵害と投稿費規約に触れるので、少し端しょって紹介します。) 隆さん、暑かった。 理由の如何んを問わず家宅からの逃避行をつづけられることはまことに羡し… もっと読む »

菊 三

私と“菊三”との出会いは、熱帯夜の異状に続いた夏の盛りも漸く終り、二百二十日前後の夜だっと思います。 それでも宵のうちは、窓をすっかり開け放しておいてもまだ扇風機の邪魔にならない程の暑さが残っていたようでした。 絵を描く… もっと読む »

道 化

『Oさん。テガミみました。 所詮、死んで仕舞う今はの際まで生きとらんとアカンもんだと観念しましようや。』 銀座のド真中に事務所を構えて、一〇年余りも営業を続けてきたデザイン会社を、どう間違えたか倒産させてしまった私の青春… もっと読む »

禅寺へ行きやれ

四十才になった年の冬、周りの反対や説諭を無視して、私は家族を引連れ琵琶湖の西化、舟木という土地に移り住んだことについて特に取り立てて云う程の理由もなかったし、生活への危惧も全くなかった。 宿り木生活にいささか嫌気がさした… もっと読む »

恩 給

桜の花も散り終り、樹々は芽吹き、ビールの味が一段と高まろうという頃に、Kから突然電話があった。 もうKとは三〇年ものがき合いであり、職場も近いのでとき折昼食などを共にしたりしている。 それがいきなり「大将!足許に落ちてる… もっと読む »

詩・酔いどれ舟 1

ヒトはもともと素晴らしく自由 神さまはそうおっしゃって いのちと知恵をお授けくださった。 自由はすごくエキサイティングで空しい 何もなく何も持たないでをのまま年をとつて 消えていく それでも絶対に好きなのだ。 恋もいい … もっと読む »

詩・酔いどれ舟 2

祭り 暑い澱みを裂いて だんじり離子が聞こえてくる 摂津本山村の夏まつり まつりはマツル・マツラウ 古代宗教の集団儀礼 生贊を供えて 時空を無視した神話のシミュレーター 神さんが来んとどもならん 糊のきいた膝丈までの浴衣… もっと読む »

詩・酔いどれ舟 3

小夜曲 神サマが好きになってしまったという 金輪際惚れたり拝んだりしないから 難儀なことだがまあいいだろう ソラ そら そら 闇の中からバッカス爺さんと ヴヰーナスねぇちやんがやって来るぞ 慌てるな、みっともないから 空… もっと読む »

演歌・酔いどれ舟

夜光虫 しょぼくれ雨の闇夜(くらやみ)に よいどれ舟は出ていった 饐(す)えた帆布に夜風が濡れて 水平線も島影も 何も見えてはいないのに 胸が騒いでふくらんで 熱い沸ぎりを感じるけれど 冬ざれの海は やけに背中が寒いなあ… もっと読む »

詩集・酔いどれ舟より

肩ごし “それ”は何だったのか 誰だったのか いつでも“それ”の肩ごしに外を見てたんだよね “ねえ どうなるの?” “さあ どうなるんだろうね” 上目づかい その人はいつも上目づかいにわたしをじっと 見つめているのです … もっと読む »

鎮魂歌・酔いどれ舟

おかげ 一〇センチメートルの厚さの地球の皮膚に 喰らいついて生物共は存在しているそうな 太陽が在って 地球の皮が生産を続けているお蔭げ 死んでるけど うごいている宇宙 皮がないしおかげもないから無限 皮なし宇宙はエライ!… もっと読む »

風物詩・酔いどれ舟 1

冬景色 夜を徹しての年始の宴にしたたか酔いしれて 猫の待つわが巣に帰ろうとする足どりが こころもとない だいじょうぶでずか・・・・・ 雪が降ってきました 風花です 菊三とランが腹を空かして待っていまずから・・・・・ ご馳… もっと読む »

風物詩・酔いどれ舟 2

世相 アルコールで頭のめぐりが弱ったあたりで 週刊誌の耳慣れない言葉に出くわす いつものことだけど ディコントラクション(脱構築) フランスのジャック・デリダというおっさんが、ロゴス 主義の西欧哲学を読み変えようというシ… もっと読む »

詩・酔いどれ舟

足音 ヒタヒタ シタシタ と たしかにこの耳が聴いている 花冷えのおそろしい足音を とこしえの命を導く真実のおぞましい爛熟を ヒタヒタ シタシタ と 秘やかに水音を忍ばせて 瀬淵を渡って来る足音は 幽暗の古代と来世の荒廃… もっと読む »

第1期
(1983年2月~11月)
第2期
(1985年6月~1986年5月)