夜光虫
しょぼくれ雨の闇夜(くらやみ)に
よいどれ舟は出ていった
饐(す)えた帆布に夜風が濡れて
水平線も島影も
何も見えてはいないのに
胸が騒いでふくらんで
熱い沸ぎりを感じるけれど
冬ざれの海は
やけに背中が寒いなあ
夜光虫が刺(とげ)になって
舳先(へさき)を噛んで砕けて散った
エンヤコラのドッコイショ
ご破算
何十億年か
何百億年か
はたまた何千億年か億々年か
おいらの地球も巻ぞえ喰って
月・火・水・木・金・土
冥王星も海王星も
おてんとさんの無理心中
大爆発をやらかすそうな
いいや しょぼしょぼと
孤独にしぼんで消えなさるそうな
どう足搔いても
存在するものやがては消える運命(さだめ)なら
引きずり歩く人生航路
人を見下し傲然と
諌めも垂れる神サマよ
おおかたは上目づかいに自分を責めて
九分通りにんげんを識ったとき
メビウスの輪を悟るのかな
厭世の情けを誰もが抱いて
オポチュニストに変身自在
ご破算勘定の黙示録
へラへッタラ ヘラへラへ
(昭和六〇年一〇月)