足音
ヒタヒタ シタシタ と
たしかにこの耳が聴いている
花冷えのおそろしい足音を
とこしえの命を導く真実のおぞましい爛熟を
ヒタヒタ シタシタ と
秘やかに水音を忍ばせて
瀬淵を渡って来る足音は
幽暗の古代と来世の荒廃への萌し
あえて未来への進歩と創造への妄想を
子孫に伝え遺そうとする義務と自負
ただをれだけに每日の営みに汗を流す
神はおごそかに宣う
“みよ! わたしはすべてのものを新しくする”
神の創造物である人間と
人間の創造物である道化の神との同工異曲
心を許して偽しあえる恋しいひとはもう何処かへ行って
しまった
神よ 新しく宣うなら
牛を飼い羊の遊ぶ高原と
土をおこし草を鋤き
麦をまく沃野をお与え下さいませ
ひとかけらの曠罪も覚えず
微塵の色気もない利発者が
地球のスラムに蠢めく魂の収奪をはじめる
叫喚の坩堝の中に指呼奔走する娑かたち
その醜乱の疲れるとき
ヒタヒタ シタシタ と
たしかにこの耳が聴いている
(昭和六一年四月)